痛みに弱い患者さんを「歯医者嫌い」にさせないために、衛生士が知っておきたい心理

歯科衛生士の心理学

歯科衛生士として日々クリーニングをしていると、
「本当はここまで全部きれいにしたい」
そう思う場面はたくさんあります。

でも、相手が痛みに弱い患者さんだった場合、
その“正しさ”が必ずしも“最善”とは限らないこともあります。

痛みに弱い人の心理

痛みに弱い人は、単に「我慢ができない人」ではありません。
多くの場合、過去の体験や不安の積み重ねによって、痛みに対して強い警戒心を持っています。

① 過去の痛い経験が強く記憶に残っている

歯科治療で強い痛みを感じた経験は、脳に「危険」として深く刻まれます。
そのため、実際の刺激以上に体が緊張し、痛みを増幅させて感じてしまいます。

② 先の見えない不安が恐怖を大きくする

「いつまで続くのか分からない」
「どこまで痛くなるのか分からない」
この予測できない状態が、不安を強める大きな要因です。

人はゴールが見えないと、実際の刺激よりも恐怖を感じやすくなります。

③ 我慢しなければいけないと思い込んでいる

痛みに弱い人ほど、
「ここで痛いと言ったら迷惑かも」
「大人なんだから我慢しないと」
そう考えて、限界まで耐えてしまう傾向があります。

④ 緊張が痛みを増幅させている

強い緊張状態では、体はこわばり、呼吸も浅くなります。
この状態では刺激に敏感になり、同じ処置でも痛みを強く感じやすくなります。

⑤ 「また痛い思いをするかも」という予期不安

実際に触れられる前から、
「どうせ今回も痛いはず」
と身構えてしまうことで、脳が痛みのスイッチを先に入れてしまいます。

痛みに弱い人の心理を理解することは、
技術だけでなく安心感を提供するケアにつながります。

不安を減らし、見通しを伝え、我慢させない環境をつくること。
それが、痛みに弱い人にとっての「信頼できる歯科」への第一歩です。

「全部落とすこと」よりも大切なこと

歯石や汚れは、確かに残さない方がいい。
プロとして、できる限り完璧なクリーニングをしたくなるのは自然な気持ちです。

けれど、強い痛みを我慢してもらって
「もう二度と行きたくない」
そう思われてしまったらどうでしょう。

その患者さんが歯科から遠ざかってしまえば、
数年後、口腔内はもっとひどい状態になってしまうかもしれません。

だから私は、目の前の汚れをすべて取ることよりも、定期的に通ってもらうことをまず目標にしています。

最初は「痛くないクリーニング」でいい

痛みに弱い患者さんには、最初から無理をしません。

  • 今日は浅いところだけにしますね
  • 痛かったらすぐ教えてください
  • 無理せず、少しずつ慣れていきましょう

そう声をかけながら、
「今日はここまでできました」
と、小さな成功体験を一緒に積み重ねていきます。

汚れが多少残っていても、
「痛くなかった」「思っていたより大丈夫だった」
そう感じてもらえることの方が、長い目で見てずっと大切だからです。

信頼関係ができてから、次のステップへ

何度か通っていただくうちに、
患者さんの表情や反応が少しずつ変わってきます。

緊張が和らぎ、こちらの説明にも耳を傾けてくれるようになる。
そのタイミングで、私は必ず正直に伝えます

「今日は少し深いところまで触るので、痛みが出るかもしれません」
「でも、今まで残していた大事な部分をきれいにできます」

いきなり何も言わずに深いところを触ることはしません。
心の準備ができているかどうかで、痛みの感じ方は大きく変わるからです。

「我慢させない」こともプロの仕事

痛みに弱い患者さんは、
「迷惑をかけたくない」「言い出しにくい」
そう思って我慢してしまうことが多いです。

だからこそ、

  • こまめに声をかける
  • 表情や体の動きをよく見る
  • 少しでも違和感があれば手を止める

こうした積み重ねが、
「この人になら任せても大丈夫」
という信頼につながっていきます。

ゴールは「通い続けられる歯科」

クリーニングは一回で終わるものではありません。
本当に大切なのは、続けられることです。

多少時間がかかっても、
少しずつでも確実にきれいにしていく。

そして、患者さん自身が
「歯医者は怖い場所じゃない」
そう思えるようになること。

痛みに弱い人に寄り添うことは、
甘やかすことではありません。

その人の将来の口腔内を守るための、
とても大切なコミュニケーションだと私は思っています。

今日も、目の前の患者さんが
「また来よう」と思って帰ってくれることを、何より大切にしています。

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