歯科衛生士のコミュニケーション術【小児編】
〜泣いてしまう子どもに、まず必要なのは「治療」じゃない〜
歯科医院に来た小さな子どもが、診療台を見るなり泣き出してしまう。
歯科衛生士として働いていると、そんな場面に何度も出会います。
「怖くないよ」と声をかけても、涙が止まらない。
無理に治療を進めようとすればするほど、子どもはさらに不安になってしまいます。
小児対応で一番大切なのは、治療を進めることよりも、まず“安心してもらうこと”。
今回は、私が日々の臨床で意識している小児とのコミュニケーションについてお話しします。
「怖いことしないよ」は最初に必ず伝える
小さい子どもが歯医者を怖がる理由はとてもシンプルです。
何をされるのか分からない、それだけで恐怖になります。
だから私は、最初に必ずこう伝えます。
今日は怖いことしないよ
この一言だけでも、表情が少し緩む子は多いです。
子どもにとって「怖くない」と保証してもらえることは、大きな安心材料になります。
「何が怖いの?」と聞いて、ひとつずつ潰していく
泣いている子に対して、
「大丈夫だよ」「すぐ終わるよ」と言いたくなる気持ちは分かります。
でもそれよりも大切なのは、何が怖いのかを本人から聞くことです。
- 音が怖い
- お水が苦手
- 顔に風がかかるのが嫌
- 前に痛いことをされた
理由は子どもによって本当にさまざま。
「何が怖い?」
「音かな?お水かな?」
と選択肢を出しながら聞くと、言葉にできる子も多いです。
怖い理由が分かれば、あとは一個ずつ潰していくだけ。
正体の分からない恐怖が、一番子どもを不安にさせます。
「歯医者=怖い場所」にならないことが最優先
一度「歯医者は怖いところ」というイメージがついてしまうと、
その後の治療は本当に大変になります。
泣いて暴れて、押さえつけて治療を終わらせることはできるかもしれません。
でもそれは、将来の通院をもっと難しくしてしまうこともある。
小児の場合、
- 今日は診療台に座れただけ
- お口を開けられただけ
それでも十分な成功です。
「今日はできなかったから失敗」ではなく、
安心して帰ってもらうことがゴールだと思っています。
鏡を使って「何をしているか」を見せる
子どもに鏡を持たせて、
今何をしているのかを一緒に見ながら進めるのも、とても効果的です。
「今ここをきれいにしてるよ」
「風が出るところ、見えるかな?」
自分の口の中で起きていることが分かると、
分からないから怖いという気持ちが、少しずつ減っていきます。
もちろん、鏡を顔に近づけすぎる子も多くて
正直ちょっと邪魔な時もありますが…(笑)
それでも、
子どもが「何をされているか分かっている状態」で受ける処置は、
安心感がまったく違います。
心理学的に見る「見せる・説明する」小児対応の効果
子どもが歯科治療を怖がる大きな理由のひとつに、
「何が起こるか分からない状態への不安」があります。
心理学ではこれを、予測できない状況に対する恐怖と考えます。
大人でも、先が見えないことは不安になりますよね。
鏡を持たせて治療の様子を見せたり、
今から何をするのかを言葉で伝えたりする行為は、
この「分からない」を「分かる」に変える働きがあります。
また、子どもが自分で見て確認することで、
自分が状況をコントロールできている感覚が生まれます。
これは心理学でいう自己効力感につながり、
「怖いけど、ちょっとなら頑張れそう」という気持ちを引き出します。
無理に我慢させるのではなく、
納得したうえで参加してもらう。
それが、次につながる小児対応の土台になります。
エアーをかけて“遊ぶ”時間を作る
いきなり治療に入るのではなく、
私はよくエアーを使って“ちょっとした遊び”をします。
- 手にエアーをかけてみる
- 「冷たい風だよ〜」と言ってみる
- 子ども自身にスイッチを見せる
すると、
さっきまで泣いていた子が、ふっと笑顔になる瞬間があります。
その笑顔が出たらチャンス。
「できたね」「すごいね」としっかり伝えます。
歯科衛生士が“怖い人”ではなく、
一緒に遊んでくれる人だと感じてもらえるだけで、次のステップがぐっと楽になります。
小児対応は「技術」より「関わり方」
小児の診療は、テクニックやスピード以上に、
どう関わるかが結果を左右します。
- 急がない
- 否定しない
- できたことを見つけて褒める
その積み重ねが、
「歯医者、ちょっと頑張れた」
という成功体験になります。
その経験がある子は、次に来たとき、必ず少し強くなっています。
まとめ:まずは安心、それから治療
泣いている子どもを前にすると、
「どうしよう」「時間が…」と焦ってしまうこともあります。
でも、そんなときこそ立ち止まって、
- 怖いことはしないと伝える
- 何が怖いのか聞く
- 安心できる時間を作る
この順番を大切にしてみてください。
治療は後からでもできます。
安心は、今この瞬間にしか作れません。
同じ歯科衛生士さんの、小児対応のヒントになれば嬉しいです。



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